小林えみのブログ

本の紹介やその周辺、社会のこと

社会の移行期間で見る『不適切にもほどがある!』

宮藤官九郎が脚本執筆の『不適切にもほどがある!』、世間的には面白く見られているようです。
参考▼

阿部サダヲ『不適切にもほどがある!』劇中のイジリに反してコア視聴率&TVer冬ドラマ1位の適切結果!昭和と令和の対比が平成世代に刺さった|ニュース|ピンズバNEWS

一方、私の周囲では様々な指摘・批判が続々とでてきています。
そのほとんどに私は同意です。

一方で『不適切にもほどがある!』が良くないドラマか?といえば、今のところ、好意的に評価したい、と考えています。

 

このドラマの放送の間(本校執筆時第4話まで)、気になるふたつの話題がありました。

①「大吉原展」の問題
参考▼
「大吉原展」開催前に吉原遊郭を学ぶ|遊廓で生きた女性と買春が抜け落ちた「大吉原展」の告知。吉原遊廓とはどんな場所で告知の何が問題なのか。問題提起をした瀧波ユカリさんに伺います(2/15)#ポリタスTV - YouTube

H&Mの広告炎上
参考▼
H&M、制服姿の女児の広告を撤回 ⇒ 目立った抗議理由は「性的表現」よりも「ルッキズム助長」だった(オーストラリア)

どちらも、私はとても理解できる問題です。
一方で、この二つは「何が問題なの??」という人も周囲には多くいます。
ジャニーズ事務所松本人志氏の件はまだわかる。
でもこれは何が問題なの??

 

社会はここ20年、10年、数年で急激にアップデートしているなあ、と感じます。
私は1978年(昭和53年)生まれなので、『不適切にもほどがある!』の舞台1986年は8歳で、ぜんぶを「懐かしい」と共感はできませんが、おおよその空気感、粗雑な様子を記憶しているし、その後、社会人になっても少なくない間、およそフェミニストには程遠い感覚をもっていました。
ただ、ある程度、自分がマイノリティの立場(女性)に立つこともあったことから、アップデートしていく感覚に乗っかっていけたのだと思います。
もし、私が「マジョリティ男性」だったとしたら?
「人権人権うるせえなあ」と言っている可能性は否定できません。
そこまでひどくなくとも「え、いまのセクハラなの?何が悪いの?」とついていけていない状態も想像できます。

 

ひとつ、大きく共感した批判が藤井セイラさんによる「アラサー女子がモヤる…「不適切にもほどがある!」に見える"変われない自分を許してほしいおじさん"の甘え」です。
参考▼
https://president.jp/articles/-/78728
「娘にしないことはしない」という判断基準がこのように広がっていいのだろうか?」この問題点の詳細はぜひ記事でご確認頂きたいのですが、大きいのは「家庭内での性的虐待の40%が実の父親によるものという事実」です。そして、いずれにしても「本当は人を「所有物」と見ている時点で間違っている」。

 

ただ、ほんとうに現実世界では「素朴にわからない」による、悪意なき差別の再生産がくりかえされているなかで、過渡期にいる「ついていけていない人たち」が途中のマイルストーンとして消化し、ステップとしていくための作品になりうるのではないか、と思います。
「大吉原展」の何が問題か?
H&M」の広告はどこが望ましくないのか?
『不適切にもほどがある!』を批判的に見ている人にはわかる。
好意的に見ている人には、まだピンとこない。
その間に『不適切にもほどがある!』があります。
私も、「うーんこれは」と思うところもありますが、ドラマが、放送されてはまずいほど致命的な表象がないのであれば(上記の藤井氏も「娘にしないことはしない」が流布することでの危険性を指摘されており、それも同意はできますが、まだ私としてはそれを「致命的」とはとらえておらず、許容範囲として)、このドラマの行く末を、楽しんでいる人たちとも一緒に、批判も紹介しつつ、見守りたいな、と思っています。

個人的には「コンプラコンプラうるせえな!」と市郎(阿部サダヲ演じる主人公)にしばかれても、もっと「コンプラコンプラ!」を叫んでいきたいです。まだまだ不当な差別や社会問題はたくさんあって、それによって幸せではない人、スタートラインに立つことも難しい人たちもたくさんいるからです。

 

したがって、「温かく見守りたいから批判は控えた方がいい」ということはまったく思っておらず、むしろそうした批判点がでる、それも(全員ではないにせよ)視聴者が眼にすることでまた気づきの機会を得られる、そういうスパイラルになればいいのではないでしょうか。
もちろん、それも理想通りに事が運ぶとは思えませんが、昭和53年からの人生を振り返ると、まだ十分ではないにせよ、ほんとうに社会はずいぶん変わったな、と思います。まだまだ変えていくために、多くの人をそれに巻き込んでいく、考える機会のある『不適切にもほどがある!』を応援したいと思います。
なお、宮藤官九郎氏(及び作品)の熱心なファンだから擁護している、ということではないです。現時点での放送を確認しての記事ですので、今後の展開次第では「さすがにこれはまずいのでは、応援できない」になる可能性はあります。
また、言わずもがなですが、いくつか指摘したいことを感じた方が「こんなの見てられない」「不愉快」はあり得るので、無理して見てほしい、その上で間違ってることは指摘してほしい、ということではないので、各自ご判断ください。

 

オススメ本▼
おじさんのアップデートものとしては、そのアップデートの過程や触れている内容も繊細に扱っている『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』のマンガがお勧めです。こちらもドラマ化されていますが、そちらは未見のため、どう仕上がっているのかわからないので意見は保留します。

https://manga.line.me/product/periodic?id=Z0001125
LINEマンガ。紙版や電子版も書店・各種電子書店で販売されています。