小林えみのブログ

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これからの哲学を考えるイベント ローティとハイデガー、朱喜哲と池田喬

朱喜哲さんと池田喬さんのトークイベントが2024年3月5日に開催される。

honto店舗情報 - 【19:30開演】 『人類の会話のための哲学』『ハイデガーと現代現象学』刊行記念「ローティとは何者か」

こちらは是非ご覧頂きたく、今回のイベント開催にあたっての所感を記す。

 

2016年のアメリカ大統領選の際にも、「まさか」と思いながら見守っていた事態と同じ推移をたどるニュースをみながら考え込んでいた。
あまり、世界を平和にするとは思い難い人物が支持され、大国の長への道を再び歩もうとしている(もちろん、まだ結果はわからない)。

トランプ氏がヘイリー氏の地元でも予備選圧勝、無傷の5連勝…共和党の指名獲得ほぼ確実に : 読売新聞

ミャンマーでも闘いは続いており、ウクライナも予断を許さず、ガザは酷い状況。世界は、良くない「まさか」、素朴な善性を否定するような動向が絶えない。

そうした中で、何を信じ、どのように違う意見の人たちと話をすべきか、考えあぐね、時には鬱々とした。

朱喜哲さんの『人類の会話のための哲学』は、そんな時代にあって、「雑多で多様な複数の声たち」と会話することに希望を見出す哲学をローティを通じて私たちに提示してくれる。昨年、その前から原稿、ゲラを読みながら、なんども心を強くしてもらえた。

そのことばは、暖かく、優しい。

正直なことをいうと、以前にプラグマティズムの書籍に触れた時には、その面白さはあまりわからなかった。ローティという哲学者そのものも面白いが、私は朱喜哲という哲学者を通じ、彼のエッセンスが加わって知ったからこそ、プラグマティズムに光を見出すことができた。

 

しかし、古代ギリシア以来の伝統につらなる哲学のあり方を否定し、新しい道筋を見出したと言われるローティ。その哲学は、過去の営みをまったく切り離した独自の存在なのだろうか。

ローティは「この世にもまだ新しい何かがある」という感覚のために余地をあけておく啓発的哲学者としてハイデガーを挙げている。彼は、過去の哲学に連なって継承しつつも、そのあり方に対して問いを投げている。

ハイデガーナチスに加担した哲学者とされ、厳しく問われつつも、その哲学は今なおさまざまな価値を見出されている。

現象学の観点から分析哲学的なトピックに取り組む「現代現象学」を用いてハイデガーの『存在と時間』を読み解く『ハイデガーと現代現象学』もそんなひとつであり、その現代への射程は、ローティや朱さんの射程とも重なる。

また、著者の池田喬さんも、ある意味ローティのように(そして朱さんのように)稀有で才気あふれる哲学者だ。

存在論を扱うハイデガーを専門としつつ、現象学へ切り込み、(そして日本哲学にも造詣が深い)、差別の哲学なども関心領域としつつ、今回は『存在と時間』の新たな価値を見出す本書を上梓された。

池田さんの著作や論稿、訳書を読むと、ああこういうことであったか、と腑に落ちると同時にその明晰さに慄然とする。

 

ローティ、ハイデガー。朱喜哲、池田喬。

このクロスの面白さは、当日、知的な火花となってはじけ、私たちに着火するだろう。

これまでの哲学とこれからの哲学を様々な意味で結ぶ結節点であり新たな出発点となる時間を共有する貴重な場を、ぜひ見逃さないで頂きたい。